大坂なおみ選手のアイデンティティーについて考えてみる

大坂なおみ選手が2019年全豪オープン女子シングルスで優勝し世界ランキングも1位となりました。
私が本格的にテニスを見始めたのは2014年の全米オープンあたりから。そう錦織選手がファイナリストになった大会です。それまでは四大大会の決勝戦くらいしか見てませんでしたが、錦織選手のプレーを見て、体格の劣る日本人選手でもしっかりしたプレーをすれば世界でも活躍できるという姿に感動しました。
2015年に退職して、家にいる時間が増えたので、ATP、WTA問わずテニスを見る時間も増えてきました。
2016年に大坂なおみ選手が全豪オープンに現れたときにはある意味衝撃的でした。名前は漢字仮名まじりの「大坂なおみ」なのに、ハーフで日本語を話せない人だったからです。ただその頃から大阪生まれで米国育ち、お父さんはハイチ系の米国人でお母さんが日本人ということを知っていましたので、日本人として活動しているなら日本人として応援しようと決めました。
個人的な気持ちとしては、米国育ちでも子どもには日本語を教える親もいるので、お母さんが日本語を教えてあげなかったことは残念に思いました。母語教育は子どもには大事です。ハーフであればなおさらだと思っています。英語が主であっても、日本語も話せるようにしておくことを考えておいて欲しかったなあと思います。まあ、それぞれ家族の考え方があるんでしょうし、おそらく日本の実家にはあまり戻らなかったんでしょうね。
なお、あらかじめ言っておきますが、私の子どももハーフということもあり、ハーフに対する偏見はありません。
かくして初出場の全豪オープンでいきなり3回戦まで進んだことは、日本のテニス界にとっても喜ばしい出来事でもありました。それまでの日本人選手とは異なり時には200Kmを超えるサーブとトップランクの選手とも互角に打ち合えるストロークを持ち合わせていましたので、将来が楽しみだと感じましたね。2016年は4大大会中3大会で3回戦に進みランキングも100位以内に定着するようになりました。
ただしメンタル的に未熟な面があり、試合中でもアップダウンが激しいため、ピンチになると自分を追い込んで自ら崩れてしまうことが多く、安定した成績はおさめられませんでした。なのでランキングがなかなか上昇しない時期が続いていました。
転機となったのは、もうすでに皆さんがご存じのようにサーシャ・バジンがコーチに就任してからです。2018年は驚異的な飛躍を見せました。全米オープンでも優勝し、世界のセレブになりました。
ところが、彼女が活躍する度に日本の国内外で言われるのが「彼女は日本人なのか?」ということです。
日本人かどうかということで言えば、紛れもなく日本人です。日本人の血が入っているからということではありません。日本国籍を持っているからです。それ以上でもそれ以下でもありません。また同時に米国人でもあります。当たり前の話です。
人が見た目だけで「日本人なの?」と言うとき、「人種」や「民族」を意識していると思います。
しかし、このグローバル社会において国籍と人種を同一視することはすでに時代遅れです。そういうことにいまだに気づいていない人が多いことに驚きますね。他人に「日本人か?」と疑問を持つ人は自分がなぜ日本人なのかを考えてみるべきでしょう。さらに言えば、「米国人って何?」と考えてみることもお勧めします。そこには人種とは無関係な定義が存在するでしょうから。
思うに、大坂選手にとって自分が何人かにはあまり興味がないでしょう。彼女は自分のことを日本人であり、米国人であり、国籍はなくてもハイチ人と考えていると思います。なぜなら両親が生まれた国である日本とハイチという国に特別な思いを持っているでしょうし、米国で育ち米国籍を持っているからです。うちの子もそうですが、ハーフにとっては両親の国が自分の国なんですよね。国籍があろうとなかろうと関係ありません。日本では法律上21歳を終えるまでに国籍を一つに選択するようになっていますが、個人のアイデンティティーは常に法律とは別の所にあります。なので国籍選択を迫る法律はハーフにとってはある意味残酷でもあります。
結局のところ自分が何人になるかは他人が決めることではなく自分が決めることです。国籍も最終的には自分で決めるでしょう。我々はそれを尊重するしかありません。
大坂選手はこれまでフェドカップに日本代表で出てますし、2020年の東京オリンピックも日本代表で出るでしょう。人種はどうであれ日の丸を背負って戦ってくれる以上、私の中のナショナリズムは日本人として大坂選手を応援します。同様にハイチの人は大坂選手をハイチ由来の人として応援するでしょう。米国人が大坂選手を米国人として応援することもあるでしょう。大坂選手がそれについて変だとも思わないでしょうし、むしろうれしいことでもあると思います。
それより大坂選手について「日本人なの?」というくだらない議論をすることによって、大坂選手にうんざりされて「米国」に取られてしまう方を心配した方がいいですよ。(まあ、そういう人はそんなことは気にも留めないのでしょうが)
テニスの話をもう少し。
大坂選手がランキング1位になったことによりフェドカップへの出場が逆に減ってくることになると思います。ランキング1位の責任としてWTAツアーやグランドスラム大会が優先されるからです。テニスのツアー大会は個人の戦いであり、国同士の戦いではありません。なので「日本人選手」として戦ってくれるのは東京オリンピックくらいになりそうですね。ちょっと残念だけどw